【第10回】理想の滞在のススメ〜錺屋・月屋〜

牛若丸と弁慶の出会いの場


京都駅の北。「五条通」の鴨川に架かる「五条大橋」は、平安時代末に牛若丸こと源義経と弁慶が出会ったという伝説で知られている橋です。圧倒的な力を誇り、乱暴者として有名だった弁慶。彼は1,000本の刀を奪うという悲願を立て、道ゆく人を襲っては刀を奪い取っていたのですが、とうとう1,000本まで残り1本というところで、五条大橋を笛を吹きながら通る牛若丸と遭遇します。



弁慶は悲願達成まであと一本の刀を奪い取るため牛若丸に襲いかかりますが、牛若丸は巧みなフットワークで欄干を飛び交い、最後は弁慶を返り討ちにしてしまったそうです。そんな歴史上でも根強い人気を誇る牛若丸と弁慶の逸話が残る五条が今回の舞台。



五条大橋から繋がる五条通りに面するゲストハウス「錺屋」。



さらに、ゲストハウス錺屋から徒歩3分ほどの距離にある姉妹店お宿「月屋」。この二つの宿を運営するオーナー女将の上坂涼子さんにお話を伺いました。それでは、涼子さんお願いします!


ゲストハウスとの出会い、宿運営のきっかけ


涼子さん:現在、京都市内で「錺屋」と「月屋」という2棟のゲストハウスを運営しています。運営を始めたのは「錺屋」の方が先で、今から約10年ほど前の2009年にオープンしました。もともと宿運営を始めるきっかけとなったのは、今思い返すと学生時代にドイツへワーホリで留学した時の実体験が根幹にあるような気がします。ワーホリしていた当時はお金もなかったので、旅行をする時にはゲストハウスやユースホステルと呼ばれる安宿をよく利用していました。



また、ワーホリ当時住居として借りていたアパートにはたまたまお部屋が2つあったので、余っているお部屋を他人に貸していたこともありました。その当時は、Airbnbのようなサービスはなかったので、だいぶアナログなやり方なのですが、ホステルなどにチラシを貼って同居人を募集していました。海外在住経験がある方には共感いただけるかもしれませんが、海外ではホステルだけではなく、スーパーやストリートの電柱など、街中の至る所にそういったチラシが貼られているんです。今でも海外の街中を歩いてると見掛けることがあるかもしれませんね。それでも当時はレスポンスがあったので、同居人探しには苦労しませんでした。


そのような部屋を誰かに貸すという海外での経験が今の宿運営に繋がっているような気もするのですが、いざ日本に戻りすぐに宿運営を始めたのかと言われるとそうではなく、特にやりたいこともなくカフェや郵便局などでアルバイトをしていました。しかしそんなある時、京都市内で運営しているゲストハウスの存在を知りました。もともと旅行は好きだったので、国籍問わず旅行者が集うゲストハウスで働けば自分も旅行気分を味わえるのではないかと思い、和楽庵というゲストハウスで働き始めました。


期間としては2年ほど働いていたのですが、ある日和楽庵の女将に「自分で宿やってみたら」と唐突に言われたんです。それまで自分で宿をやるなんて思ってもみなかったのですが、和楽庵で連日満室のお断りメールを送っていて、当時はゲストハウスも少なかったので、需要があるのなら自分でもできるのではないかと思い始めるようになりました。


ここにしかない特別な時間、すぐそこにある日常を味わう


和楽庵女将のひょんな一言から自分で宿をやろうと決意し、物件を探している中で、現在の錺屋の建物と出会いました。とにかく建物自体の魅力がすごくて、一目惚れに近い感覚でした。江戸時代より続く薬屋さんだった建物は、町家でありながらも、どこか西洋的でモダンな印象も感じられるかと思います。



宿として改装する上で、できるだけ建物の歴史とその空気感を閉じ込めたいと思い、水回りと電気工事以外はほぼ全てDIYで内装を作りました。また、和楽庵女将の旦那さんがフランス人の大工さんだったので、色々と助けていただき、オープンまでようやくたどり着きました。昔は当たり前だった景色や時間も、現代だと特別に感じられたりしますよね。そんな京都に住んでいる人にとっては何気ないような日常を、宿泊者の方には宿での滞在を通して感じていただけたらと思います。



姉妹宿となる「月屋」は、旅館とゲストハウスの中間に位置するようなコンセプトで2014年にオープンしました。ちょうどインバウンドブームの波が来る前ですね。正直、宿の改修には時間とお金が掛かりましたが、町家に詳しい設計士さんや工務店さんのおかげで、より町家本来の魅力を引き出すことができました。「錺屋」よりも宿泊人数を少なくし、部屋着用の浴衣も用意し、朝ごはんも部屋出しで行うことから、ちょっとした旅館気分を味わっていただけるかと思います。そんなサービスやコンセプトを評価していただけたのか、嬉しいことに2年連続でミシュランの京都・大阪部門で1パビリオンに選出されました。今まで予約サイトを使わずに集客できているのも、本当に錺屋・月屋を愛してくれるスタッフとお客様のおかげだと思っています。


「錺屋・月屋」滞在時のオススメの過ごし方


タイミングが合えばなのですが、京都ならではのイベントである骨董市は是非オススメしたいです。東寺で開催される弘法市は毎月21日、北野天満宮で開催される天神市は毎月25日に行われています。京都には古くて良いものがたくさんあるので、お気に入りの一点ものを探す楽しみを味わっていただけたらと思います。中には、数百円で買えるものもあったりするので、気軽に誰でも楽しむことができます。また、どちらも朝早くからやっているので、朝のお散歩がてら出掛けてみてはいかがでしょうか。



天気の良い日であれば、レンタサイクルで鴨川沿いをサイクリングするのも気持ちいいと思いますよ。ちょうど鴨川沿い、五条大橋のすぐ近くにefish(エフィッシュ)というカフェがあるのですが、そこはオススメです。もし、少しお腹が空いたな〜と思ったら、是非立ち寄ってみてください。



その後は、ひたすら鴨川沿いを北上し、出町柳くらいまでサイクリングを楽しんでも良いのかなと思います。ローカルなお店も多いですし、市内の中でも古き良き京都の雰囲気が多く残っているエリアで、個人的にも好きな街です。



あとは、そうですね〜。そもそも自分自身が旅の目的や計画を立てないタイプなので、特別オススメしたいプランなどは思い浮かばないのですが、錦市場やデパートなどで京都ならではの食材を買って、ゲストハウスのキッチンで料理を楽しむのも良いかなと思います。



外で美味しいものを食べるのも良いのですが、せっかくキッチンを用意しているので、京都の暮らしを味わいながら、料理をする時間も滞在の楽しみ方の一つかなと思います。ちなみに、錺屋のキッチンは少年サンデーで連載中の漫画のモデルにもなっているんです。色々な場所をまわって観光メインの旅も良いのですが、お客様の中には月に一度のペースで来てくださる方もいて、何となく日常生活に疲れてガス抜きで訪れる方も多いような気がします。そういう意味では、第二の実家、家のような感覚で宿での滞在を存分に楽しんでいただきたいです。


私が思う京都の魅力


私は京都生まれ・京都育ちで、現在もこうやって宿の運営をしながら京都に住み続けているので、他の街と比べてどうこうとは言えないのですが、街の規模が小さい割に、良い意味で他人に干渉されないのが京都の良いとこかなと思います。小さい街や田舎の方だと、割と周囲の身近な人に干渉されながら生活しないといけないケースって多いと思うんですよね。もちろん干渉されるのが悪いと言っている訳ではなく、自分にとってはそれが居心地が良いということです。私がこうやって京都に住み続けて、ゲストハウス事業ができているのも、良い意味で放っておいてくれる京都の府民性があるからだとも思うんです。


あとは、具体的に何がとは言いにくいのですが、京都の街のゆったりとした雰囲気が好きです。あまりせかせかしていないというか、ビジネスをしている人でも「カネ、カネ!」と鼻息荒い人よりも、自分のペースは崩さず儲けよりも時間を大切にしている人が多いような気がします。実際に急にお店を休んだり、極端に営業時間が短いお店もあったりするので。そんな京都のゆるさに癒されにくるお客様もたくさんいます。錺屋・月屋も滞在を通し、ゆったりとした京時間を楽しんでいただける空間をご用意しているので、是非一度遊びにいらしてください。



いかがだったでしょうか?筆者も何度か「錺屋」「月屋」にはお邪魔させていただいてるのですが、どちらも違った魅力がありつつも、京都の暮らしを味わうという根幹のコンセプトは共通していると感じました。宿の常連さんでそのまま宿直・フロントのスタッフになる人もいれば、京都へ頻繁に旅行に来ているうちに、そのまま京都へ移住してくる方もいらっしゃるそうで、たくさんの出会いに溢れ、時にはその人の人生の一部ともなる宿なのだと感じました。


錺屋・月屋のオーナー女将 上坂涼子さん、ありがとうございました!





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出身/宮城県 在住地/京都府
ライター。宮城で生まれ育ち、大学から東京へ上京し、海外での滞在を経て、今現在は京都で事業を行なっています。「泊まる〜暮らす」の導線づくりをしています。
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